法律と税金は知っている人間の味方

資本主義の分析

久しぶりに無知な人間の自宅を処分する仕事をする

私はかれこれ20年近く不良債権を回収している。
正常に返済されないローンというヤツはとてもコストがかかる。
貸しても手間もかからないから金利が安いのであって、
貸した金をオイコラ言わないと回収できないようは貸付金は当然金利が跳ね上がる。

転職してからゴリゴリの不良債権回収からは遠ざかっていたが、
久しぶりにゴリゴリの不良債権回収の局面がやってきた。
70歳を過ぎた老人のマイホームを売るという仕事だ。

まあ慣れてはいるが、決して楽しくはない。
同情はするがカネはあげられない。
残念だが助からない。
自宅は売るしかない、
しかし、債権者は売ってくれなくても一考に構わない。

©板垣 啓介先生

今のご時世、競売の方が高く売れることが多い。
仲介手数料を払うくらいなら裁判所に競売費用を払った方が良い。
モノによっては仲介手数料の方がクッソ高いのである。

むしろ売却を拒否してくれとすら思う。
まあそんなこんなで、無知な老人が担保として提供した自宅を処分することになった。

保証人になるべからず。

親の言うことは良く聞いておいた方が良い。
間違ったアドバイスも多いが、保証人になるな。
というアドバイスは100%正しい。

こんなものはハイリスクノーリターンである。
親だろうが、息子だろうが、
保証人になってはいけない。
助けるつもりで保証人になってしまうことで、
本当にその人がヤバい時に助けられずに共倒れである。

保証をしないと潰れるというなら潰した方が良い。

今回、私が処分する老人の自宅もそんな保証がらみである。
老人になって、やっと住宅ローンが終わったと思ったら、
家を競売される。
人生救いがない話である。

この老人は100万円で片付けられたはずの借金なのに2,000万円払うことになったよ!

この老人の借金であるが、
私がこの老人であったら家を取られることはなかったと思う。

不動産と金融の初歩の初歩、宅建の教科書を1回読んだら身につけられる知識だ。
それがあれば1,900万円も得する(損しない)ことができたのである。

話はこうだ。

この老人は自宅4,000万円で買った。
住宅ローンも3,850万円借りた。
当然銀行の住宅ローンが1番抵当についた。

そしてこの老人は兄弟の保証人になって、
自宅を2番抵当に入れたのである。
債務は15億円だ。

老人の兄弟の会社は経営がうまく行かなくなって、
銀行はサービサーへ債権を売却した。
老人の自宅の評価額は2,000万円。
まあ土地の値段だけである。

サービサーはこの担保をゼロと評価していた。
なぜならば1番抵当の住宅ローンの残債が2,000万円も残っていたのである。

サービサーが2番抵当権で競売しても、
回収はゼロである。

しかし、この老人はとんでもないバカなことをする。
なんと、自己資金で抵当権1番の住宅ローンを繰上げ返済したのだ。
2,000万円を繰上げ返済して1番抵当権を抹消したのである。

さて、サービサーとしてはゼロの評価の2,000万円の1番抵当が消えて、
2番抵当で2,000万円の取り分が無条件で転がり込んできたわけだ。
ゼロで買った債権が2,000万円である。
笑いが止まらん。

まあこんな話。
この程度の話で「?」が浮かぶようでは、ダメだ。
不動産を買うなら絶対知っておかねばならない知識である。

私が、老人だったら、まずはサービサーに連絡して、
担保を外してくれ!と交渉する。
1順位の住宅ローンの債務がたっぷりあることで、
サービサーはおそらく100万円で抹消することにも応じる。
(銀行では応じない、サービサーだから応じるのがミソである)

まずは2番抵当を100万で外して、保証債務も免除してもらう。
それから晴れて住宅ローンを完済すればよい。

老人は全くもって可哀そうだ。
知識がないばかりに2000万円も取られたのである。
新築住宅を買った時点で損をしているし、
借金を返し終わったのに家を取られるのだ。
ひどい話だが、これは全く合法である。
私には1㍉の違法もない。

法律と税金は無知なものを助けないのである。

ま、日本には生活保護というありがたい制度もあるので、
生きることはできる。
老人は頑張って生きて欲しい。

をはり