事業承継の難しさの根源

相続・教育・次世代

そろそろ社長を引退して、次世代に任せたい

という経営者が身近にいる。
この経営者曰く、
自分はそろそろ引退して後進に任せ、オーナーに徹して、
冬はハワイ、夏は国内。
そんな生活をしたいという。
にもかかわらず、今の社員どもは自分の期待通りに動きやしない。
いつまでたっても社長を引退できない。
と言うのだ。

なるほど。

私も近い将来、似たような問題を抱える気がするから、
分かる。
私も今の不動産規模が拡大して、専業になったとする。
さらに、息子に任せて自分は引退したいと。
そんな状況だとする。
イメージはできる。

問題は複数あるのだが、
この社長、自分のオーナーシップを放棄しないのである。
自分が株主として支配しつつ、仕事は社員にやらせて、
収益だけ取ろうというのだ。
これはいかん。
オーナーシップを抑えたまま、社員を働かせるというのでは、
社員はいつまでもオーナーの顔色伺い社員のままである。

オーナーとしての株式を新しいメンバーに売却して、
自分は不動産で悠々自適にやればいいのである。
オーナーシップを手放すことなく、
上前だけハネるのはなかなか厳しい。
中にはプロ経営者という人種もいるが、あの人たちは異常に報酬が高い。

さらにだな。

特に社員を雇う形で経営しているオーナーの場合、
その中核メンバーは「自分がやりやすいチーム」となっている。
縁故採用的な人物もいるし、
本来的な能力よりも高い給料を得ている人もいる。

自分がエースで4番のチーム構成にしておいて、
自分が抜ける。
自分の地位を「お前がやれ」と、
言ったところで、機能しないのは自明である。

指名された人物は、
自分がやりやすいチームを作りたいはずだ。
完全にシステム化(できないが)された組織や設備で、
経営者がオペレータに徹する形になっていればいいが、
その経営者が運営する事業ではそうはならない。

仮に私がその組織の社長になるのであれば、
自分が採用したい人物を採用してくる。
人件費の予算は限られるので報酬の体系も大幅にイジると思う。
経営方針もガラリと変える。

私の事業もそう。
私は勤め人と大家というスタイルで、東京都東部~千葉の比較的高い戸建を
買っているが、息子はRCのビルで拡大したいかもしれないし、
勤め人ではなく、DIYer型で拡大したいかもしれない。

初代の経営スタイルをそのまま2代目が引き継げ!
というのは無理である。
であるからして、基本的には経営者の事業承継は困難を極める。
そうなると完全に所有と経営の分離が実現している、
大企業に譲渡するしかないのかもしれない。

実際そのケースはかなり多い。

任せるならば手を引かなければならない

経営を任せるならば、
やり方、人員、設備、すべて承継する人に任せねばならないと思う。

武田信玄を継いだ武田勝頼は、
武田信玄を目指して信玄になり切れずに滅亡してしまったと思う。
承継した瞬間、織田信長に「すんませんでしたー!」
と謝罪して領土を甲斐だけにされても臣従するしかないのだが、
それができたならば滅亡は避けられたと思う。

生存中に後継者は選択しておかねばならないし、
後継者の経営スタイルというものも、
よくよく理解しておかねばならない。
特に直系相続の場合だが、
息子世代の人生の半分以上は、自分が後見的に見ることになってしまう。
変な強制をしてしまったり、
相手の致命的な悪性(ギャンブル癖、横領癖、浪費癖)を見落としてしまう危険もある。

大いに気をつけねばならない。

いずれにしても、自分という個体は老化し、死ぬのであるから、
遅かれ早かれ、手は引かねばならない。
会長職みたいな立場で実権を有していたのでは、
次世代社長も、経営者も、社員も会長の顔ばかり見て経営をしてしまい、
実権がいつまでも新経営者に移らないことになる。

移すと決めたらスパっと離れることだ。
Coco壱もおそらく社内には任せられる人材はいなかったのだと思う。
英断である。
ZOZOも同じだろうし、実例は枚挙にいとまがない。

私の場合の事業承継

私の場合には、勤め人と大家の並走でやってきたわけだが、
次世代まではおそらく勤め人+大家で走らないといかんと思う。

私が次世代には勤め人の苦しみを少し味わってほしいというエゴもある。
しかし、おそらく次世代が30代になってきたら、
勤め人は卒業してもらって構わない規模になっていると思う。
孫世代では間違いなく、専業でもよい。

個人的には勤め人でもやりながら経営できるシステムを構築した方がいいと思う。
ヘタにビジネスに手を出すと大やけどをする。
不動産の収益を食いつぶすだけならまだいいが、
不動産自体を売却せざるを得ない苦境に陥る可能性もある。
不動産は売るな。と、家訓に加えておかなければなるまい。

法人に財産を集中させる。
固い株式と不動産で保有する。
質素な生活を旨として、税率の低いところで収まるような少額の給料を法人から取る。
このスタイルさえ守ることが出来たら、永遠に安泰である。

マカオでバカラ賭博をして億単位ですっ飛ばすのに
東大を出てしまうような地雷子孫が生まれたらもう仕方ないわけだが、
そんな風に資産を維持しながら人生を楽しむ一族になってほしいと思っている。

何にしてもだな。
結局先代が60代まで財産は抑えているわけだから、
子供世代的には、財産を引きつづげるのは40代以降なわけで、
それを待つような人生はぜひツマらんと思ってほしい。
自分で20代から始めて30代には自前の経済基盤を構築する方がいいと思うような人間であってほしい。
私も生まれ変わってもゼロから始める。
でも、親が資産家だったら、金くらいは貸してほしいが。

をはり